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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)11938号 判決

原告(選定当事者) 株式会社アール・アイダブリュ建築設計事務所

右代表者代表取締役 藤田利夫

〈ほか四名〉

右五名訴訟代理人弁護士 浅見昭一

被告 尹福男

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 松本治雄

主文

1  被告らは原告らに対し、各自別紙物件目録(一)記載の建物の北東側外壁面に設置した別紙図面(一)記載の工作物を撤去して右壁面を明渡し、かつ金四四万円を支払え。

2  被告尹福男は原告らに対し、前項目録表題部欄記載の建物の七階階段に設置した巾二・五メートル、高さ二・二メートルの鉄柵を撤去せよ。

3  被告尹福男は原告らに対し、前項目録(二)記載の屋上部分を明渡せ。

4  被告尹福男は選定者各自に対し、別紙請求債権目録(1)請求元本欄記載の各金員、及び同目録(2)内金額欄記載の各内金額に対する昭和五二年五月一日から、右請求元本と右内金額との差引残額(内金額欄に記載のない場合は請求元本欄記載の金員)に対する昭和五六年四月一日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  管理費についての原告らの主位的請求を棄却する。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

7  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  主文第一ないし第四、第六項同旨、但し右第四項につきその主位的請求として「被告尹は原告らに対し、金三五六万一、〇〇〇円、及び内金一九六万三、〇〇〇円に対する昭和五二年一一月三日から、内金一五九万八、〇〇〇円に対する昭和五六年七月一六日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決。

2  仮執行の宣言

二  被告ら

(本案前の申立、主文第一項の工作物撤去請求部分につき)

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案につき)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告らは、別紙選定者目録記載の選定者によって選定された者である。

2  別紙物件目録表題部欄記載の建物(以下「本件マンション」という。)は、建物の区分所有等に関する法律の適用を受ける区分所有の対象となる建物であって、選定者ら及び被告尹をも含めた別紙区分所有者目録記載の区分所有者によって同目録記載のとおり(但し、被告尹専有の車庫のうち変電気室分一三平方メートルは後記のとおり共用部分)区分所有されている建物である。

3  被告らは、昭和五二年五月一二日頃、本件マンションの共用部分に属する別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件管理人室」という。)の北東側外壁面を取り毀し、別紙図面(一)に記載のとおりの工作物(以下「本件工作物」という。)の設置工事をなし、原告らは、これにより右回復工事に要する工事代金相当額四四万円の損害を被った。

4  被告尹は、昭和四八年一月頃、本件マンションの七階建物の共用部分に属する階段に巾約二・五メートル、高さ約二・二メートルの鉄柵(以下「本件鉄柵」という。)を設置し、原告ら区分所有者が別紙物件目録(二)記載の屋上(以下「本件屋上部分」という。)へ出入りできないようにしてこれを占有している。

5  管理費についての主位的請求原因

(一) 本件マンションの区分所有者は、本件マンションのエレベーター、階段、上下水道等の維持管理費用及び共用部分の清掃、電気等の共益費用(以下合わせて管理費用という)として、一戸当り(専有床面積平均約三八平方メートル)の各負担割合を、昭和四二年一二月頃開催の集会において同月から月額二、〇〇〇円、昭和五一年八月頃開催の集会において同月から月額三、〇〇〇円、昭和五二年五月頃開催の集会において同月から月額四、〇〇〇円とそれぞれ決議した。但し、被告尹の負担割合については、同被告の専有床面積は三二六・七九平方メートルであるから約八・六戸分に相当するところ、七戸分と軽減された。

したがって昭和四二年一二月分から昭和五二年一〇月分までの被告尹の負担すべき管理費は左記のとおり合計金一八一万三、〇〇〇円となる。

(1) 昭和四二年一二月分から昭和五一年七月分まで合計一四五万六、〇〇〇円(一四、〇〇〇円×一〇四か月分)

(2) 昭和五一年八月分から昭和五二年四月分まで合計一八万九、〇〇〇円(二一、〇〇〇円×九か月分)

(3) 昭和五二年五月分から同年一〇月分まで合計一六万八、〇〇〇円(二八、〇〇〇円×六か月分)

(二) 次に昭和五二年七月一〇日、区分所有者組合創立総会を兼ねて開催された区分所有者集会において、同年一一月分から本件マンションの積立金を含む管理費を専有床面積一平方メートル当りにつき月額一二〇円と議決し、その後の右集会において昭和五六年一月分から一平方メートル当りにつき月額一八〇円と議決した。

これにより被告尹は、昭和五二年一一月分から同五五年一二月分まで月額三万七、六〇〇円(前記三二六・七平方メートルから一階車庫部分のうち変電気室一三平方メートルを除いた専有床面積三一三・七九平方メートル×一二〇円)、昭和五六年一月分から同年三月分まで月額五万六、四〇〇円(三一三・七九平方メートル×一八〇円)の管理費を負担すべきこととなり、昭和五五年一一月分から同五六年三月分までの同被告の管理費の負担額は合計金一五九万八、〇〇〇円となる。

(三) また被告尹をも含めた本件マンション区分所有者は、昭和五二年四月一四日開催の集会において、水槽移動による特別修理費用として、一戸当りの各負担割合を三万円と決議した。但し、被告尹の負担割合については、同被告の専有床面積が前記(一)のとおり約八・六戸分に相当するところ、五戸分と軽減され、負担額は一五万円となった。

(四) 前記(一)ないし(三)の各決議はいずれも本件マンションの専有床面積総計の過半数以上すなわち共有者の持分の過半数以上の賛成を得てなされたものである。

(五) したがって、被告尹は前記管理費等全額の支払義務を負うものというべきところ、右債務は共用部分の管理について発生したものであるから、区分所有者である選定者各自が被告尹に対しその全額を請求することができるものというべきである。

仮に然らずとしても、被告尹は右管理費を全く支払わず、本件マンションの管理費用は選定者らの支払った管理費によって賄われており、同被告は選定者らの負担において右管理費の支払を免れ不当に利得しているということができるのであるから、同被告が支払義務を負っている管理費に相当する金員全額の返還を選定者各自において請求できるものというべきである。なお同被告は選定者らから集金した管理費によって本件マンションの管理費用が賄われていることを知っているのであるから悪意の受益者である。

(六) そこで、原告らは被告尹を相手方として昭和五二年一一月二日渋谷簡易裁判所に同年一〇月分までの滞納管理費等の支払を求めて調停の申立(同庁昭和五二年(ユ)第一九三号)をしたが、不調に終った。

6  管理費についての予備的請求原因

本件マンションの共用部分の維持管理に必要不可欠なエレベーター保守費、電気、水道代等の管理費用として昭和四五年六月一日から昭和五六年三月末日までの間に実際に支出した経費(以下支出経費という。)は、別紙渋谷レヂデンス年度別管理費用一覧表のとおり総計八二七万八、七三八円であるところ、本件マンション区分所有者のうち被告尹と訴外高橋康男は管理費を全く支払わないので、右支出経費は、結局、右の者以外の本件マンションの区分所有者である選定者らが前項記載のとおり決定された管理費を毎月支払っていた中から支出された。

各選定者のそれぞれの支出経費に対する支出割合は、別紙選定者の年度別管理費用の支出金額一覧表記載の各支出金額のとおりである(一平方メートル当りで管理費を徴収した昭和五二年一一月以降は毎月の支出経費を各選定者らの専有床面積で按分し、同年一〇月分までは支出経費を一戸当りで按分してそれぞれ算出。円以下切捨て、以下同じ)。

ところで、共用部分の管理費用は、管理規約に別段の定めがなければ各区分所有者全てがその専有床面積の割合により負担すべきものであるから、これによって前記支出経費に対する各区分所有者の負担割合を計算すると、別紙区分所有者の各年度別管理費用の負担割合一覧表記載の各負担金額のとおりであって、被告尹の負担割合は同一覧表の同被告欄に記載のとおりとなる(別紙「各選定者の年度別管理費用の支出金額」の被告尹欄と同じ)。

そうすると、同被告は、同欄記載の金額を共用部分の管理費として支払うべき義務があるのに、前記のとおりこれを全く支払わず、同被告の負担すべき分を原告ら選定者が別紙請求債権目録の(1)請求元本欄記載の各金額のとおり(同欄の金額は、各選定者の支出金額から各選定者の負担金額を差引いて各選定者が被告尹と高橋のため負担した金額を算出し、次に被告尹のため負担した金額の割合を計算して算出したもの)それぞれ分担し負担することによって、同被告はその負担すべき管理費の支払を免れているものであって、結局同被告は、各選定者らの右各欄の金額相当額の損失において同額のその負担すべき管理費相当額を不当に利得したものというべきである。

そして被告尹は、前項のとおり悪意の受益者である。

なお本件マンション2A(別紙区分所有者目録記載の室名、以下同じ)は元訴外戸ノ下誠一の区分所有であったが、昭和五四年一二月一二日選定者西岡博明、同西岡登美子、同大石保治の三名が、同2Cは元訴外畠山達郎の区分所有であったが昭和五三年一〇月一四日選定者関恒義が、同2Eは前記畠山達郎の区分所有であったが同年一一月一五日選定者先山修が、同4Aは元訴外寺田康子の区分所有であったが、同年二月二〇日選定者笠原尚が、同6Dは前記畠山達郎の区分所有であったが同年七月一〇日選定者岡田卓三がそれぞれ譲受けたものであり、右選定者らについては右譲受後に前記不当利得が生じている(従って別紙区分所有者の各年度別管理費用の負担割合一覧表、同各選定者の年度別管理費用の支出金額一覧表中の括弧内の数字は各前所有者の負担割合と支出金額を示す)。

7  よって、原告らは被告らに対し、本件マンションの区分所有権もしくはその共用部分について有する共有権に基づく妨害排除請求として本件工作物の撤去と本件管理人室の北東側壁面の明渡し、及び被告らの共同不法行為による損害賠償として連帯して賠償金各四四万円を支払うことを求め、また被告尹に対し、同じく右妨害排除請求として本件鉄柵を収去し本件屋上部分の明渡しを求め、かつ各選定者らに対し本件マンションの管理費として金三五六万一、〇〇〇円及び内金一九六万三、〇〇〇円(昭和五二年一〇月分までの管理費と特別修理費用の合計)については原告らが同被告を相手方として前記調停を申立てた日の翌日である昭和五二年一一月三日から、残金一五九万八、〇〇〇円については本件口頭弁論終結の日の翌日である昭和五六年七月一六日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、右請求が認められない場合は予備的に、別紙請求債権目録(1)請求元本欄記載の各金員及び悪意の受益者として同目録(2)内金額欄記載の各内金額に対する昭和五二年五月一日から、その各該当欄の請求元本額と内金額との差引残額(内金額欄に記載のない場合は請求元本欄の金員)については昭和五六年四月一日から、各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。

二  本案前の抗弁

(本件管理人室北東側外壁面に設置した本件工作物撤去請求部分について)

右請求部分は、共有物に関する共有権に基づく請求であるから被告尹を除く本件マンション区分所有者全員が共同原告となって訴えを提起しなければならないと解すべきところ、訴外高橋康雄、同田中マス子の二名も本件マンションの区分所有者であって、これらの者が共同原告となっていない本訴は不適法として却下されるべきである。

三  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は知らない。

2  同2の事実のうち本件マンションが建物の区分所有に関する法律の適用を受ける区分所有の対象となる建物であることは認めるが、変電気室が共用部分であることは否認する。被告尹は変電気室を含め別紙区分所有者目録記載のとおり本件マンションを区分所有しているものである。その余の事実は知らない。

3  同3の事実について被告岩谷が原告ら主張の如く本件管理人室北東側外壁面を取り壊し本件工作物設置工事をなして本件工作物を設置したことは認める。右壁面が共用部分に属すること、原告らが右設置工事により原告ら主張の損害を被ったことはいずれも否認する。

右壁面は被告尹の専有部分のためにのみ存在するものであり、また右壁面の改造工事は小規模なもので原告ら区分所有者の専有部分に何らの影響も与えない。また被告尹は、被告岩谷に対する賃貸人としての立場から右工事に承諾を与えたにすぎない。

4  同4の事実のうち、被告尹が昭和四八年一月頃本件マンションの七階建物の階段に原告ら主張の本件鉄柵を設置したことは認めるが、その余は否認する。

被告尹は、屋上出入口に近い本件マンション七階部分に居住している関係で、防犯、防災上の見地から屋上への出入りの管理をなしているのである。

5  同5の事実は否認する。

そもそも被告尹が本件マンションの区分所有者となったのは昭和四五年五月二一日(所有権移転登記経由は同年六月五日)であるから、それ以前の管理費についてまで、同被告に支払義務はない。

6  同6の事実のうち、本件マンションの2A、2C、2E、4A、6Dが原告ら主張の頃、その主張する選定者らに譲渡されたことは認めるが、その余は否認する。

四  抗弁

仮に原告らの被告尹に対する管理費の請求が認められるとしても、被告尹は原告らに対し、左記債権六〇〇万円を有するので、昭和五三年一〇月九日の第八回口頭弁論期日において、対当額で相殺する旨の意思表示をした。

すなわち、被告尹は、昭和四五年五月二一日以降本件マンション一階部分にある変電気室の所有者であるところ、本件マンション区分所有者と右変電気室の前主訴外伊藤隆七との間で、右変電気室の使用料を一か月五、〇〇〇余円としてこれを所有者に支払う旨の合意がなされた。そして、右変電気室の使用料は、その後一か月六万円と改訂され、従って、昭和四五年六月一日から昭和五三年九月三〇日迄の使用料合計額は金六〇〇万円となる。

五  抗弁に対する認否

被告尹が原告らに対し、昭和五三年一〇月九日の第八回口頭弁論期日においてその主張する如き債権があるとしてその主張するとおりの相殺の意思表示をしたこと、本件マンション一階部分に変電気室が存することは認めるが、その余の点は否認する。

被告尹の主張する変電気室は本件マンションの維持管理に必要不可欠であって、他の用途に使用することのできない区分所有者全員の共有に属するものであり、本件マンションの共用部分に当る。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本案前の抗弁について

被告らは、本件管理人室北東側外壁面に設置した別紙図面(一)記載の本件工作物撤去請求部分について、被告尹を除く本件マンション区分所有者全員によって提起された訴えではないから不適法として却下されるべき旨主張するので、検討する。

建物の区分所有等に関する法律五条一項には、区分所有者は建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないと規定されており、同条項の立法趣旨からすれば、区分所有者が同条項に違反する行為をした場合には、他の区分所有者は、単独にても、区分所有権または共用部分の共有権に基づき、違反行為者に対し当該違反行為の停止を求めることができるほか、既になされた違反行為によって生じた有害な行為ないし共同の利益に反する状態を排除して原状に回復せしめることを請求することができ必要的共同訴訟ではないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、本訴本件工作物撤去請求が被告尹を除く本件マンション区分所有者全員によって提訴されていないことは本件記録上明らかであるが、原告らは右法律の適用を受ける本件マンションの共有権に基づき右の請求をなしているのであるから、これが被告ら主張の如く不適法な訴えといえないことは明らかである。

したがって、被告らのこの点に関する主張は理由がない。

二  本案について

1  原告らが、別紙選定者目録記載の選定者によって選定された者であることは本件記録上明らかであり、本件マンションが建物の区分所有等に関する法律の適用を受ける区分所有の対象となる建物であること、車庫内の変電気室が区分所有の対象となるか否かはさておき、被告尹が別紙区分所有者目録記載のとおり本件マンションを区分所有していることは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、本件マンションは右目録記載の区分所有者によって区分所有されている建物であり、選定者らが同目録記載のとおり本件マンションを区分所有していることを認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2  本件工作物撤去請求及び損害賠償金請求について

被告岩谷が、昭和五二年五月一二日頃、原告ら主張の本件工作物設置工事をなしたことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、本件マンションは訴外伊藤隆七によっていわゆる分譲マンションとして建築された建物であり、本件管理人室はもともと本件マンションの管理のための建物として同人の所有に属し、同人は、昭和四二年頃迄本件管理人室に同人の雇用した管理人を住込ませ同人をして本件マンションの管理に必要な行為をなさしめてきたこと、被告尹は、昭和四二年頃、本件マンション七階部分に居住するに際し、伊藤から本件マンションの管理を引継ぎ、管理人によらず自ら管理したが、二、三か月間管理行為をしただけでその後は関与せず、以後は本件マンション区分所有者であった畠山達郎らがいわゆる自主的に管理をなしてきたこと、被告尹は昭和四五年六月に右管理人室の区分所有権を取得したが、被告岩谷は、昭和五二年一月、うなぎの飲食店経営の目的で右被告から同管理人室を賃借し、同年五月一二日頃、同室を飲食店(うなぎ屋)向きに改造することを企て本件マンション区分所有者の大多数の反対を無視して本件工作物の設置工事を強行し本件工作物を管理していること、該工事外壁面は本件マンションの外壁の一部で、その機能、構造及び利用上区分所有者全員のための共用部分となっており、右工事は本件マンションの機能・構造等に少なからず悪影響を及ぼすこと、そして、原告らは、右工事により少なくともその主張するとおりの損害を被ったこと、以上の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、被告尹は、被告岩谷に対する賃貸人としての立場から右工事に承諾を与えた旨自陳しているのであるから、被告尹は、右工事に関しては被告岩谷と同視し得る立場にあるものというべきである。

右認定事実によると、本件設置工事のなされた外壁面は、本件マンションの基本的構成部分であり、区分所有権の目的とならない共用部分として、区分所有者全員の共有に属するところ、被告らのなした右工事は、前述した建物の区分所有等に関する法律五条にいう建物の保存に有害な行為ないし建物の管理又は使用に関して区分所有者の共同の利益に反する行為に該当することは明らかであり、したがって、被告らは原告らに対し、本件工作物を撤去して本件管理人室北東側外壁面を明渡すとともに不法行為者として連帯して右工事によって原告らの被った損害賠償金四四万円の支払義務があるものというべきである。

3  本件鉄柵の撤去及び本件屋上部分明渡の請求について

被告尹が、昭和四八年一月頃、本件マンションの七階建物の階段に原告ら主張の本件鉄柵を設置したことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すれば、本件鉄柵設置場所及び本件屋上部分はその構造上本件マンションの基本的構成部分であって、区分所有権の目的とならず、区分所有者全員のための共用部分としてその共有者に属するものであり、本件屋上部分はもともと原告ら本件マンション区分所有者全員のための物干場、エレベーターの機械室、その他の共用設備として利用されてきたこと、本件鉄柵設置場所も原告ら本件マンション区分所有者全員の本件屋上部分への出入りのための通路として利用されてきたものであること、しかるに被告尹は、前記のとおり本件鉄柵を設置して本件マンション区分所有者の本件屋上部分への出入を妨害し、本件屋上部分を単独で占有していること、以上の事実を認めることができ、以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

被告尹は、防犯、防災上の見地からの管理行為を主張するが、この権原については何ら主張・立証がなされていないから、右主張はそれ自体失当というべきである。

してみると、被告尹は原告らに対し、本件鉄柵を撤去して本件屋上部分を明渡すべき義務があるというべきである。

4  管理費の請求について

選定者西岡博明、同西岡登美子、同大石保治、同関恒義、同先山修、同笹原尚、同岡田卓三が原告ら主張の頃その主張の区分所有権を譲受けたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、請求原因5の(一)ないし(四)、6の事実(本件マンションの車庫内にある変電気室が本件マンションの共用部分であることは後記認定のとおり)及び本件マンションには区分所有者全員の書面による同意を得た建物の区分所有等に関する法律所定の規約の存しないこと、被告尹は本件マンションの管理費用が選定者らから集金した管理によって賄われていることを知っていることの各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、原告らは、区分所有者の決議によって負担が義務付けられた管理費は、共有物の管理について発生した債権であるから選定者各自が各別に未払管理費全額を請求する権限があるとし、仮に然らずとしても、不当利得として未払管理費に相当する金員全額を右と同様選定者各自において請求する権限を有するとして、主位的に選定者各自から被告尹に対し未払管理費全額(もしくは相当額)を請求している。

しかしながら、各区分所有者がそれぞれ各別に右請求権限を有すると認むべき法的根拠は見当らず、各区分所有者としては、管理費未払いの区分所有者のため本来各自の負担すべき割合を超えて管理費用を支払った場合、それぞれ法律上の原因なくして未払区分所有者の負担すべき分まで管理費用を支払ったことになってその分損失を受け、一方未払区分所有者は右損失において法律上の原因なくしてその支払を免れ利得したことになるから、各区分所有者の右損失に相当する未払区分所有者の利得分をそれぞれ各別に不当利得として返還請求するほかないものと解するのを相当する。

したがって、原告らの主位的請求は理由がなく失当である。

原告らの予備的請求については、前認定の事実によれば、原告ら主張のとおり請求債権目録の請求元本欄記載の各金額が、被告尹において管理費を支払わないため同目録記載の各選定者が本来の負担すべき割合を超えて支払った金額で、各選定者は法律上の原因なくして右金額相当の損失を受け、一方被告尹は右各選定者の損失において右金額相当の利得を得たということができるから、同被告は選定者各自に対しそれぞれ右金額相当額を不当利得として返還する義務を負うものというべきであり、また同被告は、前認定の事実によれば悪意の受益者と認められるから、原告ら請求のとおり、昭和五二年四月末日までの利得分である前記請求債権目録の昭和五二年五月一日から利息を求める内金額欄記載の金額につき同日から、同目録記載の請求元本額から右内金額を差引いた残額(内金額のない選定者については右請求元本額)については昭和五六年四月一日から、それぞれ民法所定年五分の割合による利息の支払義務がある。

5  抗弁について

被告尹が原告らに対し、昭和五三年一〇月九日の第八回口頭弁論期日においてその主張する如き債権があるとしてその主張するとおりの相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、本件マンションの区分所有者と変電気室の前所有者伊藤隆七との間に被告尹主張の合意があったことを認めるに足りる証拠はないのみならず、《証拠省略》によれば、被告主張の変電気室は本件マンション一階の車庫内にあり、被告尹は右車庫を変電気室も含めて本件マンションの分譲者である伊藤隆七から買受けたものであるが、右伊藤は本件マンション完成時の昭和四一年四月一日、東京電力株式会社から本件マンションに電力を供給するために必要不可欠な変電器の設置場所を貸して欲しいと要望され、前記車庫内の一部を区画し変圧器設置場所として無償で貸与したこと、右変電気室には大型の変圧器が三器置かれ、同室は約一三平方メートルの独立した一室となっており、他に利用方法がないことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右認定の事実に照らすと、右変電気室は構造上利用上の共用部分であり、区分所有権の目的とならないものと認めるのが相当であるから、被告尹の専有部分であることを前提とする同被告の抗弁はその前提において失当というほかはない。

6  以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求は、管理費の主位的請求部分については理由がないのでこれを棄却し、その余は全て正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木寅男)

〈以下省略〉

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